2019/06/09

拝啓、妻へ

 

 妻が逝って三年が過ぎた。

 僕が出会ったとき、妻の寿命は決まってた。

 末期がんだった。

 残った時間を素晴らしいものにしようと僕らは懸命に生きた。

 周りの人に祝福された結婚式は最高のものになったと今でも思う。

 半年と言われた残り時間は三年まで伸びた。

 幸せだった。

 

 妻がいなくなってしばらくは、妻の分まで生きようと必死だった。仕事に夢中になりそれなりに結果も出していた。友人関係も悪くなく、僕の友人が妻の友人と結婚することもあった。

 でも……、胸に空いた大きな穴を埋めることはなかった。

 妻との思い出を忘れたくなかった。タンスに入った妻の服もそのままだった。いつの頃からか、夜、思い出のDVDを見て一人で見て泣くことが日課になっていた。

 空はいつも曇っていた。

 

 一年後、うつ病と診断された。職場の人たちも、しかたないと最初は励ましてくれたが、いつまでも前向きにならない僕に愛想をつかし、少しづつ離れていった。

 うつになって一年、会社を辞めた。職場に迷惑をかけたくなかった。

 辞めるきっかけだった業務用のカエルを捌く会社を作るから一緒にやろうと言ってきた友人は、会社の金を持って消えた。今思えばわけのわからない会社だ。高校時代の友人だった。

 

 もう、妻のいない生活に耐えられなかった。

 僕は妻に会いに行った。

 

 

 

 

 真っ暗な部屋の中で、君は怒っていた。

 わたしの分までちゃんと生きると言った、あの約束はどうしたのかと。

 

 違う。

 僕は頑張った。ちゃんと生きようとした。

 君がいないのに耐えられなかった。

 

 わたしのせいなのはわかった。

 辛かったのも苦しかったのも頑張ったのも見ていた。

 けれど、自分で死んでほしくなかった。

 わたしの命を少しでも良いものにしようと一緒に頑張ったあたなたが、命を無駄にするようなことをしてほしくなかった。

 

 もう、すんだこと。やっと会えた。

 これからは一緒にいよう。

 

 それは無理だと君は言って泣いた。

 

 わたし達の心に溝ができてしまう。

 短くても懸命に生きたわたしと、たとえ自分であっても命を消したあなたと気持ちの溝が。

 一緒にいればその溝は少しづつ大きくなって、いずれ一緒にいることにあなたは耐えられなくなる。

 

 あなたは知っていたはず。命の大切さを。

 わたしに教えてくれたのはあなたなのだから。

 

 わたしはずっと待ってる。

 生きて。

 

 

 

 

 気がついたら病院のベッドだった。

 横で父と母が泣いていた。

 妻の両親も一緒に泣いてくれた。

 実家に僕のスマホから無言電話があったそうだ。

 心配になった母が父を起こして僕の家まで車をとばし、ベランダから倒れている僕の姿を見たらしい。

 首につながったロープは切れていた。

 

 

 

 

 それから一年間とちょっと、きついリハビリを乗り越え退院した。

 後遺症もなく医者からは奇跡だと言われた。

 その後、数カ月間諦めずに就職活動を続けた。

 どこからか話を聞きつけた前の会社の友人が、独立した自分の会社に来ないかと誘ってくれた。

 

 あれから、半年が経った。

 元気になった僕に、妻の両親から養子を勧められた。

 妻の子供だと思って育ててみてはどうかと。

 

 かなり悩んだ末、僕はその話を受けた。

 あいかわず妻を忘れられない僕に、再婚は無理だと思っていた。

 片親で養子なんてできるのかわからないけど、それはこれから頑張ればすむことだ。

 いつかその子が大きくなったら、妻との思い出を話したいと思う。

 


あとがき

 いろいろ説明が足りない気がするのですが、独白調だと『僕』が気づいていないことを話すのはおかしい気がしていろいろ削除しました。

 これってちゃんと純愛になってるのかなぁ。

 

 あと、業務用のカエルってなんだよ!

 

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