2019/06/08

環境委員タケシ

 

「ん~、特に雑草生えているところなんてないなぁ。あ、猫」

 

 今は夏休み。

 今年、中学に上がったタケシは学園の花壇を手入れする為に登校してきた。くじ引きできまった、クラスの環境委員の仕事である。

 

 朝のうちに水撒きを済ませ、今は雑草取りをしている。とはいえ、各クラスの環境委員が毎日交代でやっているから雑草なんて殆ど残ってない。

 猫を雑草にジャレつかせながら、タケシはどうしようか考えた。

 

 

 

 

 結局、普段はあまり行かない裏山の畑に向かうことにした。

 猫がそっちに逃げたからだけど、あそこならまだ雑草が残っているかもしれないと思ったのも本当だ。

 ゆっくり学校を見てまわるのは入学直後の校舎案内以来だった。

 

 都心から電車で三駅でこれるこの学園都市は、広大な土地に小中高大の校舎と関連施設がみっしりと詰まっている。

 野球場にサッカーコート、バスケにバレーと新体操専用の体育館だってある。

 さらには養畜の為の牧場に水産の為のプール。裏山の畑も大学の交配研究の為に作られた場所だ。

 もっとも、そこにあるのは交配前のベースになる植物だけ。実際の作業は研究所近くの隔離された場所でおこなっている。

 

「キュルルルリュリュー」

「やぁ!!」

 

 もう少しで畑につくところで、奇妙な音が聞こえてきた。

 そして、気合の入った女子の声。

 

 裏の畑の手前にはちょっとした空きスペースがある。

 部活の自主練でもやっているんだろうと思ったタケシは、驚かせないようにのんびりと声をかけてみた。

 

「すいませ~ん。畑の様子を見に来ました」

「危なっ!」

 

 瞬間、タケシに向かって赤いボール状の何かが飛んできた。

 衝突に備えて咄嗟とっさに目をつぶる――が、ぶつかってくる様子がない。

 恐る恐る様子を伺うと、目の前に小さな女の子が一人立っていた。

 

 中学一年の平均身長より少し小さいタケルのさらに頭一つ分小さい。学校指定の制服が同じ中学生だと示している。

 手には細い剣を持っていて、大きめのトマトがくっついているのが頭越しに見える。

 

「危ないじゃない、何やってんのこんなとこで!」

「え? 畑の様子を見に。てか、なんなのこれ? 演劇部?」

「説明めんどい! とりあえずどっか行って!」

 

 後ろからでは状況がよくわからなかったが、なんだか邪魔しちゃいけない雰囲気を感じたタケシは来た道の方へ振り向いた。

 キンッと高い金属音が鳴り響いた。

 音の方を見れば、実の中程からふたつに分かれたトマトがパカパカと開閉し、ガシガシと音を立てて折れた剣を噛み砕いていく。

 あっと思う間に、壊れた剣の欠片があたりに散らばった。

 

「うぁ、何これロボット?」

「馬鹿言ってんなぁ。とりま、逃げるよ!」

 

 女の子に手を引っ張られ、後をついていくタケシ。

 走り出した二人に気づいたトマトが、女の子に向かって飛びかかった。

 

「うぇっ!」

 

 見えてしまった。トマトの内側には大小様々な人間の奥歯がびっしりと生えていた。

 タケシを引っ張ったせいで走るスピードが落ちてしまい、このままだと女の子の頭に届きそうだ。

 金属を噛み砕くトマトが人の頭に噛み付いたらどうなるか。

 想像してしまった。

 

 女の子の手を振り払うと、持っていたバケツを思いっきりトマトに叩きつけた。

 ほとんど無意識の動作だ。

 勢いよく地面に叩きつけられたトマトだが、潰れることもなくスーパーボールのように飛び跳ねている。

 

「天然かと思ったらやるじゃない! じゃあ、これ使って!」

「え? えっ?」

 

 女の子が学校指定の鞄からリコーダーを放り投げてきた。なんとか落とさず受け取れた。

 

「口のところを捻って抜いて!」

 

 女の子に言われるまま、リコーダーの頭部管を引っこぬく。

 外れたジョイント部分の隙間から真っ白に輝く刃が見える。そのまま引き抜けば、全長三〇センチくらいしかないリコーダーから一メートル程の刀身が現れた。

 驚いて女の子の方を見ると同じように剣を持っている。柄になっているのは太めの油性ペンだ。

 

「私はカスミ、二年の風紀委員。とりあえずアイツを倒すの協力してくれるかな?」

「俺は一年タケシ、環境委員。よくわかんないけど了解です」

「来るよ!」

 

 年上と知って思わず敬語になるタケシ。

 横目で見れば、カスミが真剣な表情でトマトを見据えている。

 

 ふたりの声に反応したのか、トマトがこちらに飛んできた。

 カスミの注意に我に返るタケシ。剣で防いだがまたもや噛みつかれしまった。

 砕かれないように剣を無茶苦茶に振り回すと、なんとか振り落とすことができた。

 ただ、今も結構な勢いで地面に落ちたはずなのに、潰れることなくトマトは飛び跳ねてる。

 このままじゃ倒せそうもない。

 

「私が追い込むから、飛んできたらぶっ叩いて!」

 

 言ってカスミが走り出す。ゲームに出てくる忍者のように残像を残して駆け回っている。

 カスミの動きについていけないトマトが、ワンテンポ遅れて後を追う。

 飛びついてきたトマトを躱し、時には剣で受け流し、走りながらトマトを誘導していく。

 そして、タケシの前でカスミが止まった。

 

 トマトに向かって青眼に剣を構える。

 追いかけてきたトマトが力を溜めるようにたわむと、スピードを上げてカスミに突っ込んできた。

 

「今!」

 

 残像を残してカスミが消える。

 かわりに大口を開けたトマトが突っ込んでくる。

 

「でぇぇぇぇぇぇぇい!」

 

 カスミの動きを置いながら、どうすればトマトを斬れるかタケシは考えていた。必至に考えた結果、使ったこともない剣より知っているスポーツの方がいい。

 そう結論したタケシは剣をフルスイングした。

 山を駆け回った足腰がしっかりと大地を掴む。

 カスミに突っ込むつもりだったトマトは、カスミの剣に合わせて体をねじり口を縦に開けていた。

 そこに横から、タケルの剣がめりこんでいく。

 歯で受け止めることができなかったトマトは、スパッと四つになって後ろの校舎にぶつかった。

 斬られて普通の硬さに戻ったのか、グチャっという音とともに校舎の壁をうっすらと赤く染めた。

 

 

 

 

「ありがとータケシくん。アイツ速くてさぁ。一人じゃ困ってたのよ」

「どういたしまして先輩。一体何なんですアレ。あと、君付けはやめてください」

 

 満面の笑みでお礼を言ったかと思うと、ぷんすかと怒るカスミ。

 さっきまでの迫力はどこに行ったのか。

 コロコロと表情を変えるカスミに緊張もほぐれ、タケシは事情を聞いてみることにした。

 途端にカスミは眉根まゆねを寄せて不機嫌になりながらタケシに説明した。

 

 この学校は異世界の門の上にあり、異世界を封印してる。

 時々、異世界の何かがこの世の何かにとりついてモンスターになる。

 学園の代々風紀委員はそれを退治している。

 

「って事なんだけど。信じるかどうかはあなた次第!」

「信じられない。でも、見ちゃったしなぁ」

 

 タケシにしてみれば、まるでラノベかゲームが現実になったような話だ。

 いつの間にかカスミは、飛び散ったトマトにバケツの水をぶっかけて洗い流している。

 さっきまで近くで話してたのに、落ち着きのない性格らしい。

 小さな体でちょこまかと働く姿を見ていると、なんだか頬が熱くなる。

 

「先輩! 俺も手伝うよ」

「大丈夫だよ。もうすぐ終わるから」

「そうじゃなくて……。まぁ、そっちも手伝うけど」

 

 カスミからバケツを受け取ってタケシが答える。

 どこか決意した表情のタケシに、カスミはため息をついて言った。

 

「学校を守るのは簡単じゃないよ? 風紀委員のあたしに任せなさいって」

「お、俺も環境委員だから……。学校の環境守らなきゃ」

 

 心配するようなカスミの顔から目を反らし、そう答えるのが精一杯のタケシだった。

 


あとがき

 この小説は、診断メーカーの三題噺のお題メーカーのお題で書いた小説です。

 トマトがモンスターになった以外、山はたんなる場所だし剣は壊れても予備が出てくるし、あんまりお題を活かせてませんね。

 もっと物語に絡めれれば良かった。

 また、書いていて一人称と三人称がごっちゃになって大変でした。

 最期に、最近Twitterで尊い漫画が多いので真似してみたんですが難しいですね。

 今の若い子はどんな言葉使いするんだろう。台詞回しが古臭い気がする。

 まぁ、いろいろ反省点が出ましたが、とりあえず完結できたので良し。

 

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